嗚呼、愛しの婚約者様


 衝撃的な宣言をした殿下は、
「とりあえず事態は終息したことだし、君を医務室へ連れて行くことにしよう」
と私を抱き抱えたまま講堂を後にした。

 去り際、殿下の発言によって大騒ぎになってしまった講堂内は、教師陣が仕切り始めた。壇上にいるマティアス様も呆然と立ち尽くし、殿下に抱えられる私を見ていた。
 その隣に立つあの女に一言くらい言ってやりたい気持ちはあったのだけれど、何せ殿下に抱き抱えられているため何も言えはしなかった。

「あの、殿下……自分で歩けますので、もう結構ですわ」
 人気(ひとけ)の無い廊下に出たとき、公爵令嬢としての気品を損なわないよう告げると、殿下は意外にもあっさりと私を地面に下ろした。

「……殿下、なぜあのようなことを仰ったのですか」

 殿下の私を不憫に思う気持ちは分からなくもない。マティアス様から婚約破棄を告げられたことで、私の醜聞が広がり公爵家と王家の関係が悪化することを防ぐためには、彼よりも位の高い殿下があの場で私に求婚することが一番確実だということも。
 今まで全ての縁談を断ってきたという王太子ともあろう者が婚約の宣言をしてしまえば、どんなに私の醜聞が広がろうとも周りは確実に私を殿下の婚約者に望むだろう。そして、我が公爵家を思うなら、私はそれを受け入れなければならない。

 けれど、殿下がそこまでして私を庇う理由が見当たらない。
 今まで思いもしなかったけれど、まさか殿下は人知れず私を想っていたというの?
 だからここまでして私を救おうとしたのかしら、と私が純粋に疑問を抱いていると、静かだった殿下が「フッ……」と笑い声を漏らした。

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