嗚呼、愛しの婚約者様
「……何を仰りたいのですか」
 何かおかしい雲行きに質問を投げかけると、殿下は血液のように濁った真紅の瞳で、私の瞳を覗く。

「私は、卑劣な手で人を貶めようとする馬鹿な君が、愛おしくて堪らないんだ」
 まるで恐怖さえ感じるほどの美しい顔で、殿下は告げた。

 私を侮辱するような言葉ばかり吐いている癖に、いったい何を言っているのか。
 この男の頭はおかしいのか、彼が王太子でこの国は無事でいられるのか、とあらゆる思考が脳内を駆け巡ったけれど、まずは目の前の疑問を払拭しなければならない。

「まるで、愛の告白のようですわね」
「そう受け取ってもらって構わない」

 愛など感じてはいないだろうに、楽しげに私の髪を弄びながら答える目の前の腹黒な男に、私は冗談半分で問う。
「そんなおかしな理由で私を庇い、あの場で私との婚約の宣言をしたというのですか」
 すると、彼はあっさりと肯定した。

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