嗚呼、愛しの婚約者様
 気付くと私は、学園の広間にある階段を一人で下る彼女の背を後ろから押していた。死んでしまえばいいと、本気で思った。
 けれど、誰もいない隙を狙ったはずが、あの女の信者が一人その場に隠れていたようで、私の罪は即座に暴かれてしまった。

 せめて殺害は成功していてほしいと願ったけれど、奇跡的に死に損なった彼女は意識を取り戻し、階段から突き落としたのは私だと証言をした。

 それを聞いたマティアス様は怒り狂い、ある日唐突に全校集会を開いたかと思うと、生徒達の前で私を糾弾し断罪したのだ。
 そんな状況下でも、愚かな真似をしたとは思いつつ、罪悪感や後悔の感情は私には湧かなかった。

 愛する彼から婚約破棄と身分剥奪、そして国外追放を命じられ、絶望と共に私が抱いた感情は、あの忌々しい女に対する怒りのみだった。
 もし過去に戻れるのなら、今度こそ確実にあの女を殺してみせるのに……。

 そう願ったまでが私の記憶。

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