嗚呼、愛しの婚約者様
 馬鹿な女……彼をどんなに籠絡したところで、平民と王族が婚姻など出来るはずもないのに。

 ただ、それは私にも言えること。冷静に考えれば、あの女が彼と結ばれるはずなどないというのに、婚約者を籠絡された怒りに自我を失ってしまった。衝動的に彼女を階段から突き落としてしまったが、もっと上手いやり方は幾らでもあったはずだ。
 私が自らの手を汚さなくても、他の誰かにやらせて罪を被せればよかったし、それなりに金をかければ事故に見せ掛けて殺す事だって不可能ではなかった。

 前回の私の反省点は計画を立てなかったことだ。彼女を殺してからのことを一切考えていなかった。まさかマティアス様が婚約破棄を言い渡すだなんて、微塵も思っていなかったからだ。私の愛からの行動に、きっと彼はあの女に一瞬でも好意を寄せたことを後悔し、これからは私をまっすぐ見てくれるだろう……そう思っていた。

 最後に私を赤い瞳に映した彼は、酷く憎い者でも見るかのような恐ろしい表情をしていた。あの女のせいだというのに、彼は愛おしそうに彼女を抱き締め守っていた。
 私の、婚約者だというのに。

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