破滅ルートを辿る和風シンデレラストーリーの悪役令嬢(義妹)なのに、ヒーローから溺愛されている件について
7話 なんでどうしてこうなるの⁉


「わぁ! 小百合さんその髪飾りとっても素敵ですわ!」
「もしかして、今人気のロマン・ジョリーじゃありませんか⁉」
「えっ、あの、四ツ越デパートにお店のある?」

 登校するや否や、目ざとい女子たちが私の頭についている新しい髪飾りを見つけてわらわらと集まってきては感嘆の声をあげる。
 サテンリボンとレースをふんだんに使い、真珠をあしらった、赤と白と黒でモダンにデザインされたリボン型の髪飾りは、亜蘭さまからいただいたプレゼント。
 殴るか受け取るかの究極の二択を迫られた私は、恐れ多くもプレゼントを受け取る羽目になった。
 原作の中で香代子に渡した小包と同じだったけれど、中身は違うものですこしだけほっとする。原作の香代子へのプレゼントはまた別のタイミングで渡すのかもしれないし、と私は深く考えずにありがたく頂戴したそれを今日つけて登校した次第だ。

「そうなんです! あの今を時めくロマン・ジョリーの髪飾りを、家庭教師の先生が小百合さんに贈ってくださったんですの!」

 香代子さんが興奮気味に言うと、周囲から「きゃー!」と黄色い悲鳴が湧いた。多感な年ごろの女学生たちに少しでも色恋沙汰の話題は格好の的なのだ。

「その家庭教師の先生って、確か公爵家のご子息さまでしたわよね⁉」
「まぁ! 殿方からの贈りものだなんて!」

 盛り上がる彼女たちには水を差すようで申し訳ないけれど、「贈りものといっても、これはお詫びの品なので、他意はないんですよ」と付け加えておく。

「小百合さんったら謙虚なんですから!」
「そうですわよ、殿方が身に着けるものを贈るのは、特別な意味があるものですわ」
「ありませんって、そんなの」

 だって、亜蘭さまの思い人は香代子なんだから。

「それにしても、可愛らしい小百合さんにとてもよく似合っていらっしゃるわ~」
「ありがとう、みなさん。私もお気に入りなので、褒めてもらえて嬉しいですわ」

 私もまんざらでもない気持ちで、賛辞を受ける。誰が見てもこの髪飾りは可愛くて素敵だし、これを亜蘭さまが私のために選んでくれたのだと思うと、嬉しさもひとしおだった。
 私の初恋も、この素敵な贈り物のおかげで、時が経つにつれて優しい思い出に変わってくれそうな気がする。

 学校で優越感に浸り、ご満悦で帰宅した私は制服から洋服に着替えて真っ先に庭へと向かう。

 あの日、突然現れた猫も、めでたく家族の仲間入りを果たした。家の中で飼うのは家が痛むからとすげなく却下されてしまったが、その代わり庭に小さなお家を作ってもらう約束を取り付けることで手を打った。
 父と母からは、「小百合がそんなに猫好きだとは知らなかった」と驚かれたけれど、そこはまぁ、笑ってごまかしておいた。

「むぎ太郎さん、ただいまー!」
「みゃぁ~」

 名前を呼べば、縁側の下に置いた急ごしらえの寝床からのそのそと出てきてくれて、それだけで私の胸はきゅうんと高鳴る。失恋の痛手を癒してくれるかのように、私にすり寄ってくれる姿が愛しくてたまらない。体の明るい茶色が小麦色を思わせることから「むぎ太郎」と名付けた。オスだった。

「はー! 可愛いもふもふあったかい大好き!」

 前世で猫に触りたくても触れなかったストレスが反動となって、私は隙あらばむぎ太郎さんを撫でまくっていた。本当は、夜も一緒に寝たい。もっと寒くなってきたら、こっそり部屋に連れ込んでしまおうかと画策中だ。

「ねぇねぇ、猫じゃらし作ったら遊んでくれる?」

 膝の上でごろごろ言うむぎ太郎さんに、私はひたすら話しかける。今日は半日授業だったためまだ陽は高くぽかぽかと温かくて気持ちがいい。

「んー、むぎ太郎さん、一緒にお昼寝しちゃおっか」

 私は腹の上にむぎ太郎さんを乗せたまま、縁側に横になって微睡んだ。


 どのくらい寝てしまったのか、ほんの少しの肌寒さを感じて目が覚めると、違和感に気付く。
 腹の上で寝てたはずのむぎ太郎さんの代わりに、私の体には外套が掛けられていた。見覚えのある仕立てのよいそれと鼻をかすめた白檀の香りに、私はすぐに持ち主の見当がつき、かぁっと顔に熱が集まった。

「ね、寝顔……見られた……っ」

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