転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜
「未来がどこに向かっているのかは、俺にも分からない。ただ……そうだな。たまに挨拶くらいはする君たちを見たいかな」
「本当に、自分勝手な王子様ね」
「そうなんだ。だから君も俺を利用すればいい」
「利用?」
「おかしな男と結婚させられそうになったら呼んでくれよ。飛んで行って、お気持ちを表明させてもらうさ。それこそ、お上の威光を笠にきてね」

 彼女はわざとらしく鼻で笑うような仕草をして腰に手を当てた。

「ふんっ、余計なお世話よ。おかしな男が来たら挑んでやるの。私に勝てない男なんてお呼びじゃないのよとプライドをへし折ってやれば、向こうからお断りが来るわ」
「それはいいな。ま、勝手に君の事情を話した償いをいつかさせてくれ。いつでも力になる」
「……そうね。覚えておくわ、ニコラ殿下」

 今までの様子とはうってかわって、彼女が居住まいを正した。目元の涙をそっと拭いながら深く一度息を整えると、ゆるやかに膝を折った。

「……ニコラ殿下。先ほどは取り乱してしまい、誠に申し訳ありませんでした。数々のご無礼をお詫びいたします」

 彼女の瞳にはまだ涙の名残がある。しかしその表情には、誇り高きクリストフ家の長女としての気品が備わっている。

「私の愚かさが妹を苦しめていたこと、深く反省しております。そして、殿下に対しましても、感情に任せて剣に手をかけた非礼、言い訳の余地もございません。どうか、広いお心でお許しいただけると幸いですわ」

 これが、普段の彼女だ。誰にも気を許さず、孤高に生きている。

「最初に言っただろう。俺は皆とバカをやりたいんだ。楽に話してくれていいし、俺相手ならいつでも喧嘩をふっかけてくれ。剣を抜かれると困るけどな」
「あ……、ごめんなさい。職員が来るかしら」
「大丈夫さ。おそらく規格外のような存在、顧問が握りつぶす」
「顧問?」
「ああ。特に旧校舎に関しては顧問が全てを掌握している。探知を阻害することもできるし、学園長を通して人が来ないようにすることもできる」
「……普段ここに用のない人が来れないのも、私がここに来れたのも、その顧問のせい?」
「ま、そんな感じかな」

 ここに辿りつけない可能性が高いと考えていたのか。彼女は先輩だ。噂はもうずっと前から把握していたことだろう。

 旧校舎にはゴーストがいる。それは過去のあの事件で亡くなった少女に違いないと。

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