転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜
「あんたのせいだったのね……」
「わ、悪い」
「別にいいわよ」

 しばし沈黙――もっと責められるかと思った。

 窓の外はまだ明るい。
 昼前だからな。

「友達のとこ、行くか?」

 リュークはルリアンとベル子と会話しているようだ。オリヴィアも、トラ専用の容器に料理を入れてやり、友人と笑いながらスプーンですくって口の中へと運んでいる。

「……ルリアンたちのドレスも似合ってるわよね。近くで見たい?」
「別に。俺はラビッツさえいれば、それでいいんだ。俺の婚約者は、最高に可愛い」
「私が昨日、ムードづくりがヘタって言ったから……それで、そんなこと言うの?」

 なぜかラビッツは不安げだ。声は軽く冗談めいているようで、探るような調子だ。会場のざわめきが、どこか遠く感じる。

「そんなこと言われたの、忘れてたな。可愛い婚約者の側にいたい。それだけだよ」
「抜け出したいって……言ったら?」
「え?」
「一緒に抜け出してくれるの?」

 心臓が跳ねた。

 ラビッツとの二人だけの世界に入り込んだような気になる。ごくりと喉が鳴って――。

「この靴、新しいの。合わなかったみたいで……少し痛いの」
「靴ぅ!?」 

 期待したー。
 今回はめちゃくちゃ期待したのにー。

「く、靴が合わないのは辛いよな。ダンスも大変だっただろ?」
「う……ん」

 は! ここは俺の特訓の成果を見せる時なんじゃないか!?

「よし、ラビッツ! お姫様抱っこをしてやろう。一緒に抜け出そうぜ!」
「はぁ!? 結構よ」
「ラビッツに昨日、ムードづくりゼロ点って言われてさ。昨夜練習したんだよ」
「……お姫様抱っこを?」
「おう。基本だろ? お姫様抱っこってさ。ムード満点だろ?」
「誰とよ」
「え?」
「誰とって聞いてるの」

 目が怖いぞ!?

「そりゃ、侍従……毎日来るから」
「侍従って男よね」
「そ、そうだな。もちろん」

 もしや、女の子相手だと思って嫉妬されてた!? やばいぞ、ラビッツが不機嫌になるほど興奮する。

「つまりあんたは、ムードづくりのためにお姫様抱っこの練習をしようと、男の侍従を姫抱きしたわけ!?」
「そ、そうなるかな……」

 言葉で聞くとアホだな。

 だってほら、ムードづくりについて考えてたら、お姫様抱っこをしようとして落としたら大変だなーとか考えちゃったんだから仕方ないだろ? 練習するよな、誰だって。思いついたらするよな? いつかその機会が来るかもしれないもんな?

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