最低な過去はどうすれば取り戻せる?
「青は空を表し、真紅は血を表す。オレンジは太陽を、薔薇色は夜明けを。魔術を修めるにあたり、王の色階を意識するのは重要だ」

 鏡の中からレスターに会いにくる、レスターそっくりの「おにいちゃん」は、いつもなんだかよくわからないことを言う。
 わからないなりに、レスターは声を聞いているだけでわくわくする。

「まあ、魔術は理論と技術の二輪で走るものだ。そこに根性と努力を足して四輪にすると安定感が抜群。ということで次は技術だな。炎!」

 おにいちゃんは簡単な言葉で、炎や水をよびだす。
 普段はふたりきりでこっそりあそんでいるものの、その日はおかあさんと違う部屋になって、レスターがめそめそないていたせいか、夜にあそびにきて、あかるい炎をだしてくれた。

「すごい! おにいちゃんすごい!!」

 レスターがよろこんで騒いでいると、同室の子どもたちがわらわらと寄ってくる。

「なんだ? わっ! レスターが二人だ! なにしてるんだ?」
「魔術だ。興味があるか? いいぞ、これからはルイスだけでなく何人でも弟子を取るつもりでいるからな。来い、来い」

 おにいちゃんは、その場の子どもたちの中ではレスターと同じくとても小さいのに、態度はりっぱで、びくびくおどおどしたところがぜんぜんない。
 そこからひとしきり、魔術を見せてくれたことで、すっかりにんきものとなっていた。

 しかし、よるもふけるとレスターはねむくて起きていられない。朝になるとおにいちゃんはもういなかった。ゆかで話し込んでいたはずのレスターは、しっかりとベッドの中で目を覚ました。
 そのひから、おにいちゃんは毎晩あそびにきてくれるようになった。



 じつはそれまで、レスターは他の子にいじめられることがたびたびありました。おかあさんといっしょにいるのが生意気だと、よく言われていたのです。
 大部屋にうつってから、おかあさんがいないことで、もっといじめられるかとびくびくしていましたが、みんなおにいちゃんに夢中で、いやなことはぜんぜん起きませんでした。
 でも、おかあさんと離れて寝ることになったレスターは、がまんしていたさびしさがだんだんと大きくなってきて、ある日わんわんと泣いてしまったのです。

「ど、どうした? 何があった? どこか痛いのか? おにいちゃんに見せてみろ? 痛いの痛いのとんでいけしてやるからな? 俺の回復魔法は超強力だぞ?」

 おにいちゃんはいつもとてもたのもしいです。
 レスターは、胸につかえていたことをぜんぶ言いました。

「おかあさんに会いたい! 昼間もあんまりはなせないのに……」
「わかった。会いに行こう。俺が連れて行く。みんなはみまわりがきたときにうまくごまかしてくれ!」

 おにいちゃんはもうここのボス級です。かんぜんに仕切っています。みんな「いってらっしゃい!」といいへんじで送り出してくれました。

 それで、おかあさんの部屋をめざして、よるの廊下をおにいちゃんと歩きました。
 くらくてもおにいちゃんが手を繋いでくれるので平気でした。
 けれど、おかあさんの部屋にちかづいたときに、へんな物音がしました。

 * * *
< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop