最低な過去はどうすれば取り戻せる?
「いやっ、やめてくださいって、言ってるじゃないですか! 私は誰ともお付き合いする気はないんです!」
「いつまでもそんなことを言って、私を困らせないでください。どうせもう、世間はあなたのことを、私の女だと思っていますよ。拒んでも良いことありませんよ?」

 細く光の漏れた部屋から、女と男の言い争いが聞こえてくる。
 耳を澄ませて会話を聞き取ったアダムは、レスターに「ここで待て」と言った。

「野暮用を片付けてくる。危ないから子どもはくるな」
「だ、だいじょうぶ?」
「大丈夫だ、お兄ちゃんは最強の魔法使いだから何があっても負けない」

 心細い顔をしているレスターに向かって「すぐに戻る」と笑いかけてから、二歳児相当の長さの足で廊下を走り、ばあんとドアを開いてその部屋へ飛び込む。

「話は聞かせてもらった! このゲス野郎!」

 エイプリルが、デヴィットにのしかかられてベッドに押し倒されている。それを目にした瞬間、アダムの表情が凍てついたものとなった。

「な、なんだ、レスターか? 夜は出歩いてはいけないと言っているだろう! 部屋に戻れ!」
「戻る前にお前の息の根を止める。遺言を吐く時間もやらん。魔王に食らわせた俺の奥義をとくと味わわせてやろう」

 アダムの体から青白い光が線となって迸り出て、バチバチと派手な音を立てる。

「なっ。魔法!? お前……」

 驚愕に目を見開くデヴィッドの後ろで、身を起こしたエイプリルは、乱れた襟をかきあわせて叫んだ。

「殺すのはだめです! 相手は人間です、加減してください、アダム!!」

 ハッとアダムは発動しかけていた魔法を止める。

「え、エイプリル……俺がわかるか? この姿でも?」
「わかりますよ、そんな気安くありえないくらいの究極魔法を使う魔法使い、あなた以外にいません……!」
 
 アダムはすぐに駆け出し、飛び上がって棒立ちしているデヴィッドのこめかみを殴打して、気を失わせた。
 そして、小さな手を伸ばしてエイプリルの頬に触れた。

「最低なことをした……。君を三年も放っておいて、子どもが生まれていることすら知らず……」

 エイプリルは、二歳児の母らしく、細腕にかかわらずさっと幼児体のアダムを抱き上げるとふわりと笑った。

「良いんですよ。あなたがいつ目覚めるかわからないと聞いて、さっさと身を引いたのは私です。それでも、心ではひそかにずっと思っていました。死んでからもこうして会いに来てくれるなんて……でも未来あるレスターの体は返してくださいね……?」

 死んで、魂だけでレスターの体を乗っ取って、動かしていると思われている。
 誤解に気づいたアダムは、さりげない咳払いとともに、自分にかけた魔法を解き、本来の姿となった。
 俗に言うお姫様抱っこで、逆にエイプリルを抱き上げながら、その額や頬に口づける。
 そして、照れながらも愛を囁いてから、唇に唇を重ねた。

「待っていてくれてありがとう、ただいま」
「アダム――」
「こんなことしている場合じゃなかった」
「え?」

 アダムは、エイプリルを抱えたまま部屋から飛び出す。
 暗がりでがくがくと震えているレスターを見つけて、ほっと息を吐き出して「ああ、この姿じゃわからないか」と笑いながら告げた。

「おにいちゃんだよ」
「おとうさんではなくて?」

 エイプリルの一言に、アダムはむせた。

 * * *

 その後、アダムは養護院への支援を公にし、デヴィットの退任に伴い院長の座に納まる。
 そして、エイプリルとともに子どもたちを育てながら、ルイスと協力して、希望する子どもたちに魔術の手ほどきをしつつ、楽しく余生を送ることとなった。
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