仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 静かに、だが確信を持って指示を出す修吾に、瀬那は安心したようにうなずいた。

 こうした場面で求められるのは冷静さであり、それは修吾が最も得意とするものだった。そうすることで自分の本音や弱さを見せず、他人と深い感情を共有しないように努めていると言ったほうがいいだろうか。

 今ではそうして人と一線を引く修吾だが、情に脆く、熱血漢と言われていた時期もあった。
 本省に入省して間もない頃の話だ。海外からの留学生が理不尽な扱いを受けていると耳にし、担当でもないのに奔走して解決に導いたことがあった。
 感謝の手紙をもらったときに感極まり、顔を真っ赤にしながら『当然のことをしただけです』と言ったが、正義感に満ちた姿勢が〝熱血漢〟と言われる由縁のひとつだった。

 それが変化したのは三十一歳のとき。フランスで政治的迫害を受けていた現地の若者から、亡命希望の相談を受けたことがあった。

 規定では対応できない状況だったが、修吾は彼の境遇に深く共感し、非公式に支援を試みた。結果として情報漏洩とみなされ、外交上の信頼を損ねる事態に。

 若者は保護されず、〝助けたい〟という思いが、逆に相手を危険に晒したことを修吾は悔やんだ。
 情と職務の狭間で揺れた末の痛恨の失敗。修吾の冷静さは、この苦い経験から生まれたと言っていい。修吾にとって転機となったのだ。
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