仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 情に任せて動けば誰かを救えると信じていた若さは消え、職務を優先する冷徹さを身につけた。だが同時に、心の奥には消えない空白が残った。

 人を救いたいと願う気持ちを完全に捨てたわけではない。ただ、それを表に出せば再び誰かを傷つけるかもしれない。そう考え、自然と距離を取るようになっていった。

 以来、修吾は周囲に安心感を与える冷静な存在であり続けたが、同僚と酒を酌み交わしても、心の奥の部分は開かない。笑顔の裏で、いつも淡い孤立感がつきまとっていた。

 あの失敗を境に、修吾が優先するのは感情より理。迷いを胸に抱えながらも、表に出すのは落ち着きと確信だけ。それが、今の修吾を形作っていた。


 午後になり、局内の会議室で調整会議がはじまった。
 壁には欧州各国の地図が貼られ、ホワイトボードには〝次回EU協議:仮日程〟と赤字で書かれている。
 修吾は資料を手に立ち、静かに口を開いた。


 「今回の交渉は、表向きは文化事業ですが、実質は経済連携の地ならしです。向こうは〝やわらかい入口〟を使って、こちらの譲歩を引き出そうとしている」


 数名の職員がうなずきながらメモを取る。
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