仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 「我々は文化を尊重しつつも、経済的利益を守る必要がある。言葉の選び方ひとつで、交渉の流れは変わる。文案は慎重に詰めてください」


 感情を乗せず、淡々と正確に職務を遂行していく。そうすることが、危険を回避する一番の方法だ。
 修吾が話せば議論は自然にまとまり、まるで水面の波を鎮めるように空気が落ち着く。

 だがそれは、感情を切り離すことによって成り立っていた。粛々と正確に職務を遂行する。そうすることが、余計な波風を立てずに危険を回避する最良の方法だと知っているからだ。

 その冷静さに人は安心するが、同時にどこか越えられない壁を感じているのも修吾は知っている。質問や相談を持ちかけやすい雰囲気ではあるのに、心の奥にまでは踏み込めないと。

 会議室を出たあと、同僚のひとりが「神谷さんって頼もしいけど……やっぱり掴みきれないところがありますよね」と小声で漏らすのが聞こえた。
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