仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 生まれたての雛鳥のような彼女の純粋さに、凝り固まっていた心が溶かされるようだった。

 帰国後も、詩史とは途切れることなく連絡を取り合った。表向きは互いの仕事や近況の報告が中心だが、そのやりとりには不思議な温度があった。


 《今日、初めて同時通訳の練習をしたんですけど、頭がパンクしそうで……でも終わったらすごく楽しくて》


 電話口で弾む声を聞くと、彼女の小さな成長を自分事のように喜んでいる自分に気づく。


 【教えてもらった発音、鏡の前でやってるんです。隣の部屋の人に笑われてるかもしれません】


 そんな天然めいたメールを受け取ると、不意に笑みが零れ、張りつめた心がほどけていった。
 彼女は失敗や不安を隠さず口にする。その正直さが、修吾には心地よかった。励ましの言葉を返すと、すぐに「ありがとうございます、また頑張れそうです」と返ってくる。

 一方的に癒されているのは自分の方だと気づいていても、そのことを敢えて考えようとはしなかった。仕事の合間にする短いやり取りが、ただ純粋に救いだったからだ。
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