仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 再会はパリでの出会いから二カ月が経過した、文化交流会でのこと。
 公的な場で見習いとはいえ通訳として奮闘する彼女の姿は眩しく、修吾は気づけば目で追っていた。
 あちこち忙しなく動きながらも笑顔を忘れない彼女を見ていると、修吾まで自然と笑みが零れ、一緒にいた同僚には何事かと驚かれた。

 真っすぐひたむきに仕事に励む彼女を見ていると、熱血漢と言われていた当時の自分を思い出す。

 その姿に背中を押されるように、修吾は発言をためらっていた案件について、その交流会の場で自ら進んで意見を述べた。率直なのはいつもの通りだが、熱を帯びた言葉に周囲は驚いていた。

 彼女を見ていると、封じ込めていたはずの情熱が、また顔を覗かせるのだ。
 そして、その場面までは人生の先輩として、純粋に詩史の仕事ぶりを喜ばしく見ていただけだった。再会を喜んでいたふたりのもとに、彼女の職場の同僚が現れるまでは――。

 何度か一緒に仕事をした近藤里依紗はさておき、彼女を〝詩史ちゃん〟と呼ぶ笹本夏生に、そのときの修吾はひどく苛立った。

 気さくなのとは違う、詩史への好意が滲む言動に焦燥が募っていく。そのいっぽうで、そんな感情の揺れに大いに戸惑った。

 この五年、なにかに心を乱されることなどなかったからだ。常に平坦。凪状態だった気持ちは、たしかに時化ていた。
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