仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 『一緒に暮らそう』


 思いがけず、そんな言葉が自分の口から零れたとき、驚いたのは誌史だけではない。
 人と一定の距離を保っていた自分が、誰かと一緒に暮らしたいと願ったのだから。

 もちろんその提案を、修吾は軽い気持ちで出したわけではない。
 近いうちにマンションを退去しなければならないという彼女の不安を取り除き、通訳のスキルを伸ばす場をつくるためにももってこいだと考えたのだ。合理的な提案でなければ、誌史も納得できないだろう。
 しかしその理屈の裏で、当然ながら修吾の思惑は渦巻いていた。

 偽りの婚約者となり、一緒に暮らし、誌史の気持ちを外堀から段階的に埋めていく。そう理性的に動きながらも、幾度にも渡ってキスを仕掛けたのは反則だったかもしれない。

 しかし一度触れてしまえば、それきりにするのは不可能。ことあるごとに彼女にキスをした。

 もちろん誌史の戸惑いは痛いほどに伝わってくる。
 パン屋の福ちゃんへ向かう途中、白昼堂々とキスしたときもそうだった。


 『……でも、これは挨拶と一緒。そうそう、挨拶だから』
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