仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 そう必死に自分に言い聞かせている彼女があまりにもかわいく、『今度はもっと深いキス、しようか』と挑発するなど、ひと回りも年上の男としてズルいと自分でも悔いた。

 その後いくらでもチャンスがあったのにそうしなかったのは、反省していたからにほかならない。
 海外への出張が続き、誌史と会えない時間が積み重なった結果、その言葉を実行に移してしまったのは誤算だが。あやうくその先に進めたい気持ちが沸き上がり、理性でどうにか押し留めた。

 外交と言葉の仕事についていつも語っているように、信頼は小さな行為の積み重ねで築かれる。それは恋愛感情も同じ。文化が国境を越えて人を繋ぐように、誌史との間にも些細な日常のやり取りを繰り返すのが大事だ。

 今より深い関係は、誌史の心が十分に修吾に向いてから。衝動的に動いてはならないと自戒しつつ、すぐ隣で誌史が無防備に寝ている姿に日々心は乱される。

 手を伸ばせば届く距離にいながら深く触れ合えないのは、ある意味拷問だった。
 まだ先は見えない。だが、パリのカフェやホテルで彼女を見過ごさなかった自分を誇りに思う。
 そして、彼女が通訳を目指すきっかけを作っていた、遠い過去の自分に修吾自ら拍手を送っていた。
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