仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 修吾は淡々と答えながらも、口に残るライムの鋭い香りの奥で、胸の内に小さなざわめきを覚えていた。
 里依紗はなにを言おうとしているのか。


 「でも、すごくがんばってるから、誰も強く言えないんです」


 その言葉に、修吾はグラスを傾けて口を湿らせた。
 里依紗の指摘は一理ある。だが〝誰も強く言えない〟という言い回しが、誌史の努力を軽く見ているうえ、彼女の能力に対する疑問を匂わせていた。

 誌史はたしかに未熟かもしれない。だが不器用さを隠さず、一つひとつ吸収しようとする姿勢こそが彼女の強みだ。それを嫌な言い方で否定され、心が波立つ。


 「それに明るくてムードメーカーなのはいいんですけど、たまにちょっと……ね、軽い感じ? あのノリで海外のクライアントと話すと、ちょっと誤解されちゃうかなって個人的には心配で」


 今度は誌史の明るさを軽薄さに結びつけ、通訳としての不適格さを暗に示唆した。

 修吾はしばし沈黙し、氷が解けて小さく鳴る音に耳を傾けた。
 軽い――その言葉が、どうしても引っかかる。


 「誤解を受ける可能性は、誰にでもあります」
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