仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 修吾は無言でグラスを持ち上げ、氷が小さく鳴るのを耳にしながら口をつける。視線を伏せたまま、口元だけに薄い笑みを浮かべる。表情は穏やかに保ちつつも、心の奥では里依紗の言葉を鵜呑みにする気も、このまま聞き続ける気もさらさらない。


 「今のが、相談ですか?」


 修吾はグラスを静かにカウンターへ戻した。


 「悪いが、俺には彼女の悪口を並べているようにしか聞こえない」


 淡々とした声ながら、語尾にわずかな冷えが宿る。


 「自宅で誌史が待っているので失礼します」


 立ち上がると同時に椅子が床を擦る音が響いた。里依紗が「もう行かれるんですか?」と引き止めようとするが、修吾は軽く会釈するだけで振り返らない。

 夜の街に出ると、九月の風がわずかに火照った頬を冷ました。ライムの残り香よりも、胸に残るのは不快なざらつきだった。

 バーを出てしばらく歩くと、ふと灯りのついたパティスリーが目に留まった。
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