仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 里依紗との会話は精神を消耗するだけだった。相談と言いつつ、誌史の悪口を並べ立てるだけ。誌史の評判を落とすことで自分を売り込むという、評判操作型の自己演出家とでも呼ぶべきか。

 他人を引きずり下ろすことでしか、自分の立ち位置を確保できない人間。その話術は巧妙で、あくまで心配している風を装う。しかし言葉の端々に滲むのは、誌史への嫉妬と修吾への媚び。誰かの影を踏むことでしか、光の中に立てない人間だ。

 里依紗は仕事で出会ったときからそうだった。修吾にそれとなく好意を滲ませ、すり寄る。下心がみえみえなのだ。
 修吾は、誌史が彼女を慕っている点だけが気がかりだった。

 ダイニングテーブルに並んで腰を下ろし、箱を開ける。フォークを手にした誌史は「どっちからいきます?」と楽しそうに迷い、結局モンブランを半分に分けた。

 ひと口食べて「おいしい……!」と頬を緩める姿に、修吾は思わず笑みを零す。さっきまで胸に残っていたざらつきが、少しずつ溶けていくのを感じた。
 何気ない会話と、甘いケーキのひととき。

 それだけのことが、修吾にとってはひどく贅沢に思えた。
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