仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 エレベーターが目的の階に到着し、扉が開く。誌史は深く息を吸い込んだ。

 (大丈夫。今は目の前のトラブルに向き合おう。とにかく泊まれる場所を探さなくちゃ)

 そう自分に言い聞かせながら、修吾のあとをそっと歩き出した。

 彼に案内されたのは広いツインルームだった。予約段階でシングルに空きがなく、仕方なくツインを取ったという。
 天井は高く、白を基調とした壁に繊細なモールディングが施されている。窓際には重厚なベロアのカーテンが揺れ、外の光をやわらかく遮っていた。窓の向こうには遠くエッフェル塔の先端がちらりと覗き、パリにいることを静かに告げてくる。

 部屋の中央には、二台のベッドが並んでいた。どちらもふかふかの羽毛布団に包まれ、クリーム色のカバーには金糸で織られた模様が浮かんでいる。枕元にはアンティーク調の照明が置かれ、淡い光がベッドサイドを優しく照らしていた。


 「まずはなにか飲んで落ち着こう。適当に座って」


 言われるまま、三人掛けのソファの隅に腰を下ろす。
 修吾は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを二本取り出し、誌史に差し出した。


 「これ、飲んで」
 「ありがとうございます……」
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