仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 遠慮なく受け取り、キャップを開ける。よく冷えた水が喉を通り、心のざわめきが少しだけ鎮まるのを感じた。

 修吾は誌史とひとり分のスペースを空けてソファに座り、スマートフォンで早速どこかへ連絡をはじめる。フランス語のため聞き取れないが、おそらくホテルをあたってくれているのだろう。

 ところが修吾の声の調子から、空室が見つからないのは明らか。だんだん憔悴していく横顔を見ているうちに、申し訳なさが募っていく。通話を切っては、べつのホテルにかけなおすのを繰り返し、気づけば一時間が過ぎていた。


 「ごめん。なんとかなると思ったんだが……」
 「見つからないんですね。わかりました。大丈夫です」


 なるべく明るく言って立ち上がる。

 (パリにはさすがに漫喫とかないよね……。ホテルのロビーにいさせてもらえないかな。隅っこのほうでいいからって。それとも、外に出て二十四時間営業している店でも探す? ……そんなのあるかな)

 一瞬のうちにいろんな案が浮かんでは消えていく。


 「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。いろいろとあたってくださってありがとうございます」


 頭を深く下げる。彼の貴重な時間を一時間も奪ってしまった。早いところここを出なくては。
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