仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 「恵まれた人間っていうひと言で済ませないでください」


 自宅の棚に並んだ本を見ればわかる。どれも読み込まれた形跡があり、装飾として並べているわけではない。

 一見するとなんの苦労もなく外交官の道を歩んでいるかもしれないが、その裏では並々ならぬ努力があったのだ。それをその言葉で片づけられるのだけは、どうしても我慢できなかった。


 「俺はそんなつもりで言ったわけじゃ……」


 夏生は、誌史の言葉に目を瞬いた。驚いたような戸惑ったような表情が一瞬だけ浮かび、それからゆっくりと眉を下げる。


 「私、神谷さんが好きです」


 うやむやにして逃げたくなかった。それが、想いをぶつけてくれた夏生に対する誠意だ。

 夏生は、誌史の言葉にしばらく黙っていた。遠くで車のライトが流れていく。
 その沈黙は言葉を探しているというより、なにかを飲み込もうとしているよう。


 「……そっか」
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