仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 言葉は優しさのようでいて、どこか棘を含んでいた。

 もちろんわかっている。修吾と自分では歩んできた道が違うことも、背負っているものの重さが違うことも。頭では理解しているが、夏生の言葉として突きつけられると痛みに変わる。

 努力を重ねているつもりだった。少しでも近づきたくて、少しでも胸を張れるようにと。
 けれど絶対に追いつけないと言われてしまえば、その歩みはあまりに小さく、無力に思えた。

 唇を噛みしめる。返す言葉が見つからず、夜風にさらされながら視線を落とした。

 足元の街路樹の影が揺れる。どこまでも重くのしかかるその影が、今の自分の気持ちそのもののように感じられる。

 夏生はなにかを言いかけて、結局言葉を飲み込んだ。ふたりの間に、車の走行音と街のざわめきだけが流れる。

 やがて、誌史は小さく頭を下げた。


 「今日はありがとうございました」


 それだけを告げて歩き出す。声は震えていたが、足取りだけは崩さないように。

 後ろから夏生が追ってくる気配はない。ひとり歩く帰り道。胸の奥に広がる冷たさは、夜風よりも鋭かった。
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