仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 十日が過ぎた。あれから里依紗や夏生との一件は常に誌史の頭の片隅にありながらも、何事もなかったかのような日常を送っている。

 修吾は里依紗と会ったことはいっさい口にしないが、里依紗はたびたびそのときの話を誌史にしてくる。ふたりでよほど楽しい時間を過ごしたようで、やはり里依紗のように年齢が近く大人の女性のほうが修吾にふさわしいのだろうと、その話を聞くたびに誌史は胸を痛めていた。

 昼と夜の境目が少しずつ冷たさを帯びてくる頃、空は高く澄み渡り、雲は薄くちぎれて風に流されていた。
 街路樹の葉は色づきはじめ、風が吹くたびにひらりと舞う。
 陽射しはやわらかいが、夕方になると空気はすっと肌を撫でていく。季節は静かに、たしかに次の扉を開けようとしている。

 フランス大使館で開かれる会食の当日、誌史は濃紺のドレスに身を包んでいた。胸元は控えめに開き、シフォンの袖が肩を柔らかく包んでいる。普段なら選ばないデザインだが、一緒に選んでくれた修吾が『似合う』と言ってくれたため勇気を出して袖を通した。

 会場であるレセプションルームに足を踏み入れた瞬間、誌史は思わず息を呑んだ。
 天井は高く、シャンデリアの光が金色の波紋を描くように大理石の床へと降り注いでいる。壁には繊細な装飾が施され、深紅のカーテンが夜の闇を背景に重たく垂れていた。中央には生花が豪奢に活けられ、その香りがシャンパンの泡と混ざり合って漂っている。
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