仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 (……やっぱり私は、修吾さんの隣に立つには不釣り合いなんじゃないかな)

 フランス語が堪能で、社交の場でも堂々と振る舞える里依紗。修吾の隣に立つなら、きっとこういう女性がふさわしい。そう思えば思うほど、足元の床が遠のいていくよう。
 グラスを持つ手がかすかに震えるのを自覚し、誌史は人目を避けるように一歩後ずさる。


 「……少し失礼します」


 誰に聞かせるでもなく呟き、そっとその場を離れた。気づいた修吾が誌史の名前を呼ぶのが聞こえたが、重厚なドアを抜け廊下へ出る。喧騒が遠くなり、代わりに冷えた空気が肌を撫でた。

 トイレの案内表示を目にし、誌史は小走りにそこへ向かう。鏡に映る自分の顔を見て唖然とする。想像以上に曇っていた。

 誌史が修吾の婚約者としてそばにいられるのも、あとわずかだと思うと胸が痛む。もしかしたら、このパーティーが終わったらお役御免かもしれない。


 「……今ここで暗い顔なんかしちゃダメでしょ」


 どんどん悪い方向へ進んでいく考えを無理に止める。まだ終わりを告げられたわけじゃない。そんな顔をしていたら、修吾の足を引っ張るだけだ。
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