仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 誌史は頬をポンポンと軽く叩いて気合を入れ、トイレをあとにした。

 会場に戻ると、ちょうど里依紗が人混みを縫うようにして修吾から離れていくところだった。艶やかなドレスの裾を翻し、すっきりとした背中を見せながら歩き去る姿は、まるでこの場にふさわしい主人公のようだ。

 (修吾さんと、なにを話していたんだろう)

 胸の奥がちくりと痛む。やはり、ああいう女性のほうが隣にいて映えるのではないか。そんな考えを振り払えないまま、誌史は修吾のもとへ歩み寄った。
 その瞬間、修吾の腕が伸び、自然な動作のように誌史の腰を抱く。

 (えっ……?)

 不意を突かれて足が止まる。視線を上げると、修吾は微笑を浮かべながらも、その瞳にはなにか強い光が宿っていた。


 「どこへ行ったのかと思った」


 低く落とした声が、耳の奥を震わせる。修吾はゆったりとした所作で誌史を自分の側へ引き寄せ、まるで大切な宝物を見せびらかすようにエスコートをはじめた。

 頬が一気に熱を帯びる。腰に回された手の力は思った以上に強く、逃れようとすれば余計に存在を意識してしまう。
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