仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 彼女の頬が赤らみ、戸惑いながらも拒絶はせずに瞬きを繰り返した姿が脳裏に焼きついている。

 修吾は深く息をつき、こめかみを押さえた。

 笹本夏生――誌史にとって身近な存在。彼に奪われる未来などあってはならないし、ないと信じたい。だが、いったん芽生えた焦燥感は消えてくれなかった。

 仕事における交渉なら冷静に均衡を見極め、相手の一挙手一投足を読み解けるのに。誌史のことになると、ただの男としての不安と欲がむき出しになってしまう。

 誌史が修吾の婚約者としてそばにいるのは、あくまでも彼女自身のスキルアップのため。自分でそう仕向けたくせに、その目的が邪魔をする。

 誌史と出会う前の修吾は、ひと回りも年下の女性に翻弄される未来など想像もしていなかった。

 (いっそ誌史に、正直な想いを打ち明けたほうがいいんじゃないか)

 唐突にそんな考えが頭に浮かぶ。偽りの婚約者として一緒に過ごすうちに、誌史の気持ちを修吾に向ければいいと考えていたが、悠長なことを言っている場合ではない。

 (ぐずぐずしていたら笹本夏生に持っていかれるぞ)

 自分で自分にハッパをかける。里依紗の話を聞いてからというもの、修吾は人知れず焦っていた。
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