仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 「ずっと元気だったのに……。でもきっと無理していたんです。修吾さんを紹介したときに顔が白いなとは思ったんですけど、もしかしたらそのときから体調が悪かったのかも。それに気づいてあげられなかったなんて……」
 「誌史のせいじゃない。お母さんは絶対に大丈夫だ」


 根拠のない言葉に今はすがる以外にない。修吾は誌史の背中をそっとさすった。

 ふたりで並んで座り、沈黙が続く。

 遠くからストレッチャーの車輪が床を滑る音が響くたび、誌史の肩がわずかに強張る。そのたびに修吾は、誌史の手を握り落ち着かせようとした。

 やがて慌ただしい自動扉が開き、ひとりの男性が小走りに入ってきた。エプロンを外したばかりのように、白いシャツには皺が寄っている。誌史の父、京志郎だった。


 「誌史!」


 低く太い声が響き、彼は真っすぐ娘のもとへ歩み寄る。


 「お父さん……!」


 誌史は立ち上がり、その胸に飛び込むようにして顔を埋めた。
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