仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
「追加で補足します」
澄んだ声が会場に響き、各国の視線がそちらへ集まる。予定にない割り込みだ。
里依紗はにこやかな笑みを崩さず、すらすらと訳しはじめた。だが、その内容は表層的で危うい。
「ええと、今回の〝低炭素水素エネルギー供給システム〟は……ええ……その、従来型の〝二酸化炭素排出削減装置〟とほぼ同義でして――」
誌史は心臓がぎゅっと縮まる思いだった。里依紗は別物をまるで同じだと断言してしまっている。
さらに続く訳は、細かな技術用語を言い換えようとして逆に意味を失っていた。
「つまり、海上輸送の際の〝圧縮貯蔵タンク〟は、一般的な〝石油輸送容器〟で代替可能で……」
会場がざわめいた。
代表団のひとりが小声で隣の通訳を確認する仕草をし、べつの参加者は眉をひそめてメモを取る。「That’s not correct(それは正しくない)」という囁きがはっきり耳に入った。
それでも里依紗は気づかぬふりで言葉を繋げる。しかし次第に誤訳が重なり、議論の焦点がずれていく。冷や汗が額に滲んだのは、彼女自身だった。
澄んだ声が会場に響き、各国の視線がそちらへ集まる。予定にない割り込みだ。
里依紗はにこやかな笑みを崩さず、すらすらと訳しはじめた。だが、その内容は表層的で危うい。
「ええと、今回の〝低炭素水素エネルギー供給システム〟は……ええ……その、従来型の〝二酸化炭素排出削減装置〟とほぼ同義でして――」
誌史は心臓がぎゅっと縮まる思いだった。里依紗は別物をまるで同じだと断言してしまっている。
さらに続く訳は、細かな技術用語を言い換えようとして逆に意味を失っていた。
「つまり、海上輸送の際の〝圧縮貯蔵タンク〟は、一般的な〝石油輸送容器〟で代替可能で……」
会場がざわめいた。
代表団のひとりが小声で隣の通訳を確認する仕草をし、べつの参加者は眉をひそめてメモを取る。「That’s not correct(それは正しくない)」という囁きがはっきり耳に入った。
それでも里依紗は気づかぬふりで言葉を繋げる。しかし次第に誤訳が重なり、議論の焦点がずれていく。冷や汗が額に滲んだのは、彼女自身だった。