仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 耐えきれず、ひとりの代表がはっきりと口にした。


 「Accuracy is lacking(正確性に欠けています)」


 方々から指摘が飛び、同時に部屋の空気が凍りつく。その瞬間、里依紗の頬はさっと赤く染まり、言葉を失ったまま立ち尽くした。

 (……今、私がやらなきゃ)

 心臓が強く打つ。誌史は大きく息を吸い、表情を整えると、静かにマイクを取りなおした。


 「ただいまのご説明を補足いたします」


 声は落ち着いていた。会場の視線が一斉に自分に集まるのを感じながら、誌史は頭の中に積み重ねてきた知識を呼び起こす。


 「今回の〝低炭素水素エネルギー供給システム〟は、従来型のCO₂削減装置とは異なる新規の技術です。特に輸送段階においては、液化水素の低温特性に対応した専用タンクが不可欠で、石油輸送容器による代替は不可能です。ここが大きな要点になります」


 正確な訳が伝わると、代表団のひとりが深くうなずいた。先ほどの混乱が嘘のように、場が落ち着きを取り戻していく。
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