仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 誌史は思わず笑みを零した。


 「じゃあ私は、チキンソテーの下処理をしますね」
 「助かる」


 修吾が操る包丁の小気味いい音が響く。ふたりの動きはいつの間にか自然に噛み合っていた。
 玉ねぎを切りはじめた修吾を横目で見ながら、誌史はフライパンに油を引く。ふと、涙目になっている彼に気づいて吹き出した。


 「泣いてますか? あっ、私が帰ってきたから嬉し泣きですね?」
 「……玉ねぎのせいだ」


 誌史がからかうと、修吾は照れくさそうに笑い返した。
 そんなやり取りひとつが、ものすごく楽しい。
 婚約者を演じていたときには終わりが見えていたが、もうそんなことを恐れる必要はないのだ。

 鍋の中では、炒めた野菜の甘い香りがふわりと立ちのぼっていた。


 「そろそろ味見してみようか」


 修吾が火を弱めると、誌史が小皿を手に取った。
 鍋の中では小さな泡が弾け、キッチンがスープの香りで満ちていく。
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