仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
その後、夕食を美味しく食べ、順番にお風呂も済ませ、誌史は寝室のドアの前で立ち止まった。
ドアノブに伸ばした指先が、まるで氷の彫刻のように固まって動かない。心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響き、喉の奥が乾いて、飲み込むことすら忘れていた。
足元はフローリングの床に根を張ったように重く、膝はぎこちなく震え一歩も踏み出せない。指先から肩、背中、太ももに至るまで、すべてが緊張の糸で縫い止められたかのようだった。
(深呼吸して……)
頭の中で繰り返すが、肺は空気を拒むように浅くしか膨らまず、息はすぐに喉元でつかえてしまう。まるで自分の体が、自分のものではないようだった。意識だけが先を急ぎ、体は置き去りにされたままだ。
なにしろ今夜は、想いが通じ合ってから初めてふたりで迎える夜。これまでとはわけが違う。きっと〝そういうこと〟になるだろう。
(だって私たち……両想いになったんだもの……!)
そう考えてひとり赤面しながらドアを開け、ロボットのような動きで中に入った。
寝室のカーテンは薄く開いたまま、街灯の淡い光が部屋に差し込み、薄い影を床に落としている。誌史はベッドの端に腰掛け、白いパジャマの裾を無意識に摘まんだ。
心臓が早鐘のように鳴り、頬が熱い。
(……落ち着いて。落ち着くの)