仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
レベルアップした自分

 修吾と想いが通じ合って三カ月が経過した。
 修吾のマンションも、今ではすっかり〝ふたりの家〟だ。週末の朝、同じソファに並んで座って本を読んだり、些細なことで笑い合ったり。いつか終わりがくると怯えていた部屋が、今では穏やかな温もりで満たされている。

 かっちりとした黒いスーツに身を包み、いつもより少し早く自宅を出た誌史は、冷たさを残した舗道にやわらかく差し込む朝の光に目を細めた。

 風はまだ冷たいが、どこかに春の気配を含んでいる。コートの襟を立てたまま歩く人々の足元に、早咲きの梅がひっそりと色を添えていた。

 信号待ちの間、誰かのマフラーがふわりと揺れ、すれ違う会話の隙間に、季節の境目が静かに滲む。二月下旬、東京の空気は冬の名残と春の予兆がせめぎ合う、ほんの一瞬の揺らぎの中にある。あと少ししたら厚手のコートも必要なくなるだろう。

 誌史が向かっているのは、文化交流サミットが開催される会場。誌史はメイン通訳として抜擢された。

 国内外の政財界関係者が集う大規模な催しで、同時通訳を任されるのは並大抵のことではない。選ばれたと知ったとき、誇らしさよりも先に、胸の奥にひやりとした不安が広がった。

 たったひと言の訳で、場の空気を変えてしまうこともある。それは里依紗との一件により、その重みなら誰よりも知っている。
 しかし、今の誌史はもう怯えてはいない。あの日、里依紗の仕掛けた妨害を乗り越えたときに学んだ。
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