仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
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 会場の最前列で、修吾は来賓たちのそばで腕を組み、真っすぐにブースを見上げていた。

 ヘッドフォン越しに聞こえる日本語の声が、まぎれもなく誌史のものだとわかる。凛としていて、穏やかで、どこか優しい。

 今回の文化交流会サミットに、誌史をメイン通訳に抜擢してはどうかと提案したのは修吾だった。
 誌史の並々ならに努力を間近で見てきて、着実に力をつけてきた彼女なら絶対にやり遂げる。そう確信したからにほかならない。

 パリで怯えながら話していた彼女の声が、今は堂々と人を導いている。

 修吾の胸に、誇らしさと愛しさが一緒に広がっていく。修吾の視線に気づくことはなかったが、誌史の表情はどこかキラキラと輝いていた。

 そして、最後のスピーカーの言葉が終わりを迎える。
 誌史は深く息を吸い、通訳を締めくくる一文を落ち着いた声で伝えた。
 静寂が一瞬、会場を包む。次の瞬間、大きな拍手が波のように広がった。
 壇上のスピーカーが笑みを浮かべ、通訳ブースに向かって軽く頭を下げる。

 誌史はヘッドセットをそっと外し、ふぅと小さく息を吐いたそのとき、客席の中にいる修吾に気づき、目が合う。微笑みながらゆっくりとうなずくと、誌史も微笑みを返してよこした。
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