仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 サミットがすべて終わると、会場は次第に人の気配を失い、拍手の余韻だけが静かに空気の中に残っていた。
 スタッフたちが片づけをはじめ、通訳ブースのライトがひとつ、またひとつと消えていく。照明が落とされ、ざわめきの消えた空間には、まだ緊張と熱の名残が漂っている。

 ブースから出てきた誌史が、誰に対してでもなくその場で深々と頭を下げる姿を見つめながら、修吾は胸の奥に静かな感動を覚えていた。

 (――やり遂げたな)

 あの小さな背中が、どれほどの重圧を背負っていたかを知っている。

 この数週間、眠る時間も惜しんで準備を重ね、ひたすら努力していたことも。そのすべてが、今この瞬間、確かな成果として結実していた。

 修吾は密かに用意していた花束を見下ろし、息を整えた。
 チューリップとマーガレットは、春の光を集めたような色合いが誌史そのもののよう。

 修吾は歩みを進め、誌史のもとに向かった。


 「お疲れ様」


 誌史が驚いたように顔を上げる。目が合った瞬間、胸が高鳴った。

 この数カ月で、彼女は本当に変わった。
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