仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 「誌史さんは、どうして通訳に?」
 「中学生のとき、家族でワシントンDCに行ったんですが、現地でトラブルに遭ってしまって……。そのとき大使館の職員が、英語で状況を整理してくれて、すごく頼もしかったんです」


 実家が営んでいる小料理屋が移転のため数週間休むことになり、せっかくだからと旅行に行ったときのことだった。家族のビザに不備があり、入国審査で足止めされてしまった。係官とのやりとりがうまくいかず、空港の一角で何時間も待たされる羽目に。そこに現れた大使館の職員が英語で状況を整理し、交渉してくれたのだ。


 「その人がいなかったら、たぶん今の私はないと思います。言葉ひとつで人を安心させたり、場を動かしたりできるんだって実感して。それがきっかけで、通訳という仕事に強く惹かれるようになりました」


 言語だけでなく交渉力や冷静さに憧れ、語学と判断力を求められる通訳像に繋がったのだ。

 修吾が目を見開く。思いを馳せるように視線を宙に飛ばしたあと、ふっと息を吐くように笑った。


 「そうだったのか」


 修吾はなにかを飲み込むように、静かにうなずいた。どこか懐かしさのようなものが滲んでいる。
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