仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 「言葉が通じないだけで人はこんなにも不安になるんだと痛感する場面に、俺も何度か遭遇してきた。そんなときに、冷静に場を整えてくれる人がいると本当に救われるんだろうね」
 「はい、そうなんです」


 誌史は大きくうなずいて激しく同意する。修吾は少し身を乗り出すようにして続けた。


 「言葉に責任を持とうとしている人は、そう多くない。通訳はただ訳すだけじゃなく、誰かの不安を受け止める仕事でもあるんだ。そういう視点を持っているキミなら、きっといい通訳になるだろう」


 誌史の胸の奥で、なにかが静かに灯った気がした。


 「ありがとうございます……! 神谷さんのご期待を裏切らないよう頑張ります!」


 今はまだ全然自信がなく、手探り状態ではあるが、いつか胸を張って言葉を訳せるようになりたい。


 「その意気だ。ところで……」


 修吾がふと真剣な表情で誌史を見た。


 「エスカルゴ、食べたことある?」
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