仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 その言葉に誌史は目を見開いた。


 「えっ、カタツムリ、ですよね?」


 頭の中に、雨上がりの歩道をゆっくり這うカタツムリの姿が浮かぶ。殻の縁をぬるりと滑る粘液、にょきっと伸びた触角、そしてその先で小さく震える目玉。葉っぱの上でじっとしているあの生き物が、まさか皿の上に乗って出てくるなんて——。

 (ひゃあ……!!)

 想像しただけで、喉の奥がざわついた。


 「そう。ここで出されるのは、バターとガーリックで仕上げたブルゴーニュ風。初めてなら、なおさら試してみる価値がある。フランスに来たなら、ぜひ食べて帰ってほしい」


 彼の声には料理への深い敬意と、誌史に新しい世界を見せたいという思いが込められていた。

 (でもでもカタツムリ。あの、ぬるっとした生き物だよね……)

 それを食べるなんて考えられず、つい眉間に縦皺が寄る。

 やがて運ばれてきたエスカルゴは熱々の陶器に並び、香ばしい匂いを立ち上らせていた。
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