仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 助けてもらったお礼をしたいと考えているが、本省で外交官として働く彼は毎日忙しそうで、誘えるような雰囲気でないのが残念なところ。いつか修吾と仕事ができる日を夢見て、誌史は目の前の仕事に精いっぱい取り組むだけだ。

 奥のワークスペースへと向かうと、すでに何人かの社員が席に着き、キーボードを叩く音や電話の声が混じり合っている。
 挨拶を交わしながら空いているスペースに腰を下ろした。

 襟元に小さなタックが入った淡いブルーのブラウスは、清潔感を第一に考えて詩史が選んだもの。Aラインのベージュのスカートは膝下で軽やかに揺れ、ローヒールのアイボリーのパンプスで静かな品を添える。
 髪は低めの位置でひとつにまとめ、耳元には小ぶりなパールのピアス。全体的に落ち着いたトーンながら丁寧に選んだ装いは、誌史なりに誠実さを意識している。


 「誌史ちゃん、昨日の会議お疲れ。クライアントが『訳が滑らかだった』って褒めてたよ」


 声をかけてきたのは、先輩の通訳者である笹本(ささもと)夏生(なつお)。黒く短く整えられた髪が、蛍光灯の光を受けてさらりと揺れる。目鼻立ちがはっきりとしていて、どこか親しみやすい雰囲気をまとっている。

 タブレットを片手に持ちながら周囲に自然と笑顔を向け、半袖の白いYシャツを着たその姿は、まるで場の空気を明るくするスイッチのよう。
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