仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 誌史が驚いて顔を上げると、そこに立っていたのは濃紺のスーツを品よく着こなした男性だった。

 (日本人? それともアジア系のフランス人?)

 三十代前半くらいだろうか。洗練された佇まいと落ち着いた物腰だ。すっと通った鼻筋と、意志の強さを感じさせる深みのある瞳が印象的で、整えられたダークブラウンの髪は清潔感と品格を漂わせている。軽くウェーブがかかったその髪が、自然なセクシーさを添えていた。

 思わず息を呑む。
 彼の声は、まるでこの街の音楽のように耳に心地よく、先ほどまでの焦りがすっと引いていくのを感じていた。


 『……ありがとうございます』


 数少ない、知っているフランス語でお礼を言うと――。


 「ここにスイーツはないから、ひとまずカフェオレで我慢して」


 日本語で返された。


 「わっ、日本人だ」


 思わずそう口走って慌てて口元を押さえると、男性は目を軽く瞬かせた。誌史を見つめて黙り込む。
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