仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 
 その夜、詩史は高級ホテルとして名高い『ラ・ルーチェ』に向かった。
 交流会のあと修吾から届いたメッセージに、待ち合わせ場所として書かれていたのがそのホテルだったのだ。
 
 修吾の偽りの婚約者になることを決めたあと、夏生と里依紗から『考えなおしたほうがいい』と説得されたが、詩史の決意は揺らがなかった。
 スキルアップは、今の詩史にとって必要不可欠。もっとも力を入れるべき課題なのだ。インターンを卒業し、早く通訳としてひとり立ちして活躍したい。その強い思いが、修吾の提案にうなずいた最大の理由だった。

 電車を乗り継ぎ、初めて訪れるラ・ルーチェへ到着。エントランスのドアを抜けると、大理石の床がシャンデリアの光を受けて、まるで水面のようにきらめいていた。ほんのり甘く花のような香りが漂い、訪れる者を静かに包み込む。

 これまでも仕事で高級なホテルは訪れているが、どこにも引けをとらない美しさと気品に溢れた空間だ。

 修吾はまだ到着していない。ロビーの中央に大胆に生けられた大きなフラワーアレンジメントがあり、詩史はその前で待とうと決めた。そこなら出入口がよく見える。
 
 華やかな花の前に立ち、ロビーを行き交う人たちを眺める。さすがに高級ホテルだけあって、洗練された人たちが多い。外国の人もたくさんいて、いろんな言語が飛び交っているため、つい聞き耳を立ててしまう。
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