仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 修吾は、詩史の背中に触れるか触れないかの絶妙なタッチで足を促した。
 エスコートされるようにして彼の隣を歩く。こうして一緒に歩くのはパリ以来だ。

 (私、こんな素敵な人の婚約者になったのよね……。偽物だし束の間だけど)

 なんともいえない高揚感と少しの優越感。そして、不釣り合いな自分への不安感。いろいろな感情に襲われながらエレベーターに乗り、三階のイタリアンレストランへ入った。

 店内には季節の花々がさりげなく飾られ、淡いベージュとテラコッタの壁がやわらかな光を受けてあたたかく包み込むような雰囲気を醸している。天井から吊るされたアンティーク調のアイアンシャンデリアが、キャンドルの灯りのようにテーブルを優しく照らしていた。

 窓際のテーブルに案内され、修吾と向かい合って座る。

 (……なんだか緊張する)

 パリでもこうして食事をしたのに、今夜のほうが格段に落ち着かない。喉はカラカラだ。

 偽りとはいえ婚約者という役目を負ったからなのか、それとも旅先という解放感がないからなのか。

 修吾はコース料理を慣れた様子で注文し、すぐに運ばれてきたシャンパングラスを手に取った。誌史も彼に倣い、少しだけ高く上げて乾杯。早速口をつけた。
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