仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 言われてみれば、名字呼びは距離を感じるかもしれない。婚約者として振る舞うなら、親密そうに見えないのは不自然だ。


 「そうですね。では……修吾さん、でいいですか?」
 「ああ」
 

 修吾は一瞬目を見開いてから、目尻に皺を寄せた。
 ほどなくして、前菜が運ばれてきた。
 白い磁器のプレートの上に、薄くスライスされた帆立のカルパッチョが円を描くように並べられている。中央にはレモンの泡をまとったミントの葉がそっと添えられ、まるで初夏の朝露のような瑞々しさを放つ。

 口に運ぶと帆立の甘みと柑橘の酸味が舌の上でほどけ、緊張していた身体が少しずつほどけていくような感覚に包まれる。


 「美味しい?」


 修吾がグラスを傾けながら尋ねる。


 「はい、とっても」


 うなずきながら、視線を皿に落とす。彼の目を真っすぐ見るのが、なんだか照れくさい。
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