仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 誌史は思わず目を見開いた。

 (すべてが映画のように輝いて見えたこの場所が、現地の人にとっては避難所も同然だなんて)

 憧れていた舞台の裏側をそっと覗き込んだような気持ちだ。
 彼によれば、フランスでカフェといえば飲み物しか提供していないのだという。


 「がっかりさせたみたいだ」
 「いえ、この街のリアルを教えてもらえて嬉しいです」


 不思議と落胆はしなかった。観光客としての視点では見えなかった風景が、彼の声を通して少しずつ輪郭を持ちはじめる。


 「日本の人たちがイメージする、ケーキを食べられる店は〝サロン・ド・テ〟という別のカテゴリー」
 「サロン・ド・テ? カフェとどう違うんですか?」


 初めて耳にする言葉のため、誌史は興味津々に聞き返す。


 「ざっくり言えば、食べ物の取り扱いがあるかないか。どのカフェも置いている飲み物は同じだから、レストランやビストロみたいに味で選ぶこともない」
 「そうなんですね」
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