仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 次々に声をかけられ、誌史は少し戸惑いながらも一生懸命に受け答えした。異文化の空気に触れるたびに心が躍る。とても刺激的な空間だ。
 婚約者のふりを続けるきっかけになった修吾の言葉を不意に思い出した。


 『俺の婚約者として振舞っていれば、海外の要人にも会う機会が増えるだろう。フランス語だけじゃなく、ほかの言語にも今より触れられる。スキルを伸ばすチャンスだと思わないか?』


 それはこういうわけだったのだ。婚約者としてそばにいれば、誌史の世界を広げられると。
 ふと隣に立つ修吾を見上げると、彼は変わらない穏やかな笑みを浮かべていた。――がほんの一瞬、その目の奥に影が差したように見えた。

 (……お疲れ、なのかな)

 場を和ませ、友人たちに気を配る修吾は完璧に見える。でも近くにいると、声の調子や肩の落とし方のわずかな変化から、どことなく無理をしていることが伝わってくる。

 (パーティーが終わったら聞いてみよう)

 そう心に決めつつ、テーブルに並んだ料理を勧められ、誌史は皿を手に取った。まだ慣れきれない雰囲気に緊張し、グラスを持ったまま料理を取ろうとしてしまい――ぐらりと手元が傾く。


 「あっ」
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