仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 赤ワインがこぼれそうになった瞬間、すっと修吾の手が伸び、誌史の手首を支える。


 「大丈夫か?」


 低く穏やかな声とともに、グラスをさりげなく取り上げてテーブルに置く。その自然な仕草に周囲も笑って流し、場が乱れることはなかった。


 「ありがとうございます……」


 耳まで赤くなりながら小声で礼を言うと、修吾は小さく首を振った。


 「こういう場は慣れてなくて当然だ。楽しめばいい」


 肩越しに投げられた視線は優しくて、胸の奥が熱を持つ。
 そんなとき、背の高い男性が軽やかに歩み寄ってきた。陽気な笑顔を浮かべ、誌史の前に立つ。


 『キミが修吾の婚約者? 本当に可愛いね。ダンスしない?』


 今度は英語だ。冗談めかした口調だが、目には悪戯っぽい光が宿っている。軽く腕を差し出されたため戸惑った。
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