仮面フィアンセ〜憧れの外交官からの執着愛に今にも陥落しそうです
 『あの、私は――』


 断りかけたそのとき、修吾が間に入る。


 『悪いが遠慮してくれ』


 低く落ち着いた声なのに、有無を言わせぬ力があった。
 男性は苦笑しながら肩をすくめ、すぐに引き下がったが、誌史の鼓動は一気に早まっていた。

 修吾はそのまま誌史の腰に軽く手を添え、耳元に顔を寄せる。


 「不用意に応じなくていい。……キミは俺の婚約者なんだから」


 吐息混じりの低い声に心臓が大きく跳ねた。
 修吾の婚約者というのは、あくまでも仮の姿。それなのに彼の言葉には本物のような響きがあるため狼狽える。

 しかし、そこでふと思い出した。


 『婚約者として振る舞うなら、まずは俺のことを好きそうに見せることかな』


 修吾はそれを実行しているだけに過ぎないのだ。詩史を好きそうに見せるための言動。このふたりは本当に婚約してるんだと周囲に思わせるために。嘘だとバレたらいけないのだ。

 (どこからルモアンヌ大使の耳に入るかわからないものね)

 そう自分に言い聞かせるが、熱が胸いっぱいに広がっていくのを止められなかった。
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