悪妻エリザベスは破滅回避のため冷徹公爵と契約を結ぶ~異常な溺愛はお断りです~
 小説の世界なのだと気づいた翌日、エリザベスは父にとある交渉を持ちかけていた。

「お父様、最初で最後のお願いがあります。私をローレンス家から除籍してくださいませ」
「急に話があると言ったかと思えば……一体どうしたんだ」

 父は戸惑いながらもエリザベスの言葉に耳を傾けた。

「実は私、神からご神託を受けたのです。このままクラウス様のもとに嫁ぐと、彼や公爵家の運命を邪魔してしまうのだと。それはこの国にとっても大きな損害なのだと……。ですが神官でもない私にご神託があったなど、皆に公表すれば教会を敵に回してしまいます。だからご神託のことを伏せたうえでクラウス様との婚約を解消せねばなりません」
「神託? まさか、そんな……」
「信じていただけないのは分かっています。だから、ローレンス家からも出ようと思います。お父様やお母様に迷惑をかけたくありません」

 目を伏せて悲しそうに微笑むと、父は険しい顔のまましばらく考え込んでいた。

(急にこんな事を伝えたら戸惑うわよね……ごめんなさいお父様。でもまだ死にたくないのよ)

 罪悪感で胸が締め付けられる。けれど、こうするほかない。どう頑張ってもローレンス家の令嬢という立場を保ったまま、自力で穏便に婚約を解消できる術がなかったのだ。

 長い沈黙の後、不意に父が口を開いた。

「一体いつから悩んでいたのだ」
「え?」
「いつの頃からか、お前は年を重ねるごとに思い悩むような顔をする日が増えていたな。心配していたんだが何もしてやれなかった。愚かな父を許してくれ」

 予想外の反応をする父を見てエリザベスは焦っていた。

「あっ、えっと……それは……」

(そ、それは時々前世を思い出していたからで。年々記憶が鮮明になっていたからで。悩んでいたわけじゃなくて、懐かしさとかが顔に出ないように頑張って堪えていただけで……)

 などと言うわけにもいかない。エリザベスは深々と頭を下げた。

「お父様にご心配をかけていたのですね。申し訳ありません。ですがもう心配はご無用です。私は運命を受け入れ、ひっそりと平民として生きていく覚悟です。これまでお父様やお母様からいただいた愛情がたくさんありますもの。どこでもやっていけますわ!」
「エリザベス……分かった。出来る限り協力しよう。だが絶縁などするものか。お前は我がローレンス家の大事な娘なのだから。隣国に親戚がいるから、そちらに身を寄せなさい」

 目を真っ赤にしながらエリザベスを抱き締める父を見ていると、前世の父の姿と重なった。

『無力な父さんでごめんな……』

 これ以上、自分の親を泣かせたくはない。だからこそ、この計画は絶対に成功させなければならない。

(お父様ごめんなさい。でも私、生き抜いてみせるわ! 親より先に死ぬものですか!)

 そうしてエリザベスは父を味方につけ、専属医師に診断書を書かせることに成功したのだった。

(父の証言と医師の診断書があれば、絶対大丈夫よ……!)

 そうして作られた手紙が、クラウスへと渡されたのだった。


***


< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop