悪妻エリザベスは破滅回避のため冷徹公爵と契約を結ぶ~異常な溺愛はお断りです~
クラウスは仏頂面のまま手紙を読み始め、短くため息をついた。
「これからどうするつもりなんだ」
「修道院に入ろうかと思います。そこで静かに暮らします」
本当は修道院に入るつもりはない。
けれど平民として静かに暮らすのだから、あながち嘘でもないだろう。
(こう言えば、本気度が伝わるでしょう?)
エリザベスの目論見通り、クラウスは書類を置くと頷いた。
「そうか……君の言うことはよく分かった」
「ご理解いただき感謝いたします」
エリザベスは頭を下げ、ホッと安堵のため息をついた。
「だが少し話しておきたいことがある」
「なんでしょう?」
クラウスは返事をしないまま使用人を下がらせる。そしてそのまま部屋の鍵を力強く閉めてしまった。まるで獲物を囲い込むように。
「あの、クラウス様?」
「さて、これで人もいなくなった。……そろそろ本当の理由を話してもらおう」
クラウスは見たこともない笑顔を顔に貼り付けている。目だけは笑っておらず、鋭い眼差しのままだ。
「……は、はい?」
「病気ではないのだろう?」
当然のように言い切られ、ほんの一瞬だけ言葉に詰まる。
「どうしてそう思われたのですか?」
「この間、君は随分と様子がおかしかった。突然ボーっとしたかと思えば、急に取り繕って、俺に早く帰ってほしいと思っていただろう?」
完璧に取り繕えていたはずが、クラウスに見透かされていた。その事実にエリザベスの喉が小さく上下する。
「察するに……君はあの時、俺もしくはハーヴェイ家の重大な欠陥に気がついたのではないか? だから何としても婚約を解消しようと家族を巻き込んだ」
クラウスに「そうだろう?」と微笑まれると、身体がぶるりと震えた。
「な、何を……」
「是非とも教えていただきたいものだ。才女と名高いエリザベス・ローレンス嬢が逃げ出したくなるほどの重大な欠陥を」
(お、怒ってる……)
婚約解消の申し出理由が嘘だと気づいている。
その上、クラウスは自分の側に原因があるのだと思っている。ならば怒るのも当然だろう。
非常にマズい。
ハーヴェイ家は長年国を支えてきた最上位の貴族。国王に忌憚なき意見を述べることが許されている数少ない家門だ。その優秀さと冷酷さは国内随一。怒りを買えばどうなるか。
エリザベスは慌てて否定した。
「そんなことはありません! クラウス様にも公爵家にも何の問題もありません。これは私自身の問題によるもので」
「ならば、この診断書を書いた医師にじっくり尋ねてみようか。それとも君の父を呼び出して……」
「お止めくださいっ!」
エリザベスは悲鳴のような声を上げた。
そんなことをされれば、ローレンス家も専属医師も仕事を失うだろう。失うものが仕事だけとは限らない。
「これからどうするつもりなんだ」
「修道院に入ろうかと思います。そこで静かに暮らします」
本当は修道院に入るつもりはない。
けれど平民として静かに暮らすのだから、あながち嘘でもないだろう。
(こう言えば、本気度が伝わるでしょう?)
エリザベスの目論見通り、クラウスは書類を置くと頷いた。
「そうか……君の言うことはよく分かった」
「ご理解いただき感謝いたします」
エリザベスは頭を下げ、ホッと安堵のため息をついた。
「だが少し話しておきたいことがある」
「なんでしょう?」
クラウスは返事をしないまま使用人を下がらせる。そしてそのまま部屋の鍵を力強く閉めてしまった。まるで獲物を囲い込むように。
「あの、クラウス様?」
「さて、これで人もいなくなった。……そろそろ本当の理由を話してもらおう」
クラウスは見たこともない笑顔を顔に貼り付けている。目だけは笑っておらず、鋭い眼差しのままだ。
「……は、はい?」
「病気ではないのだろう?」
当然のように言い切られ、ほんの一瞬だけ言葉に詰まる。
「どうしてそう思われたのですか?」
「この間、君は随分と様子がおかしかった。突然ボーっとしたかと思えば、急に取り繕って、俺に早く帰ってほしいと思っていただろう?」
完璧に取り繕えていたはずが、クラウスに見透かされていた。その事実にエリザベスの喉が小さく上下する。
「察するに……君はあの時、俺もしくはハーヴェイ家の重大な欠陥に気がついたのではないか? だから何としても婚約を解消しようと家族を巻き込んだ」
クラウスに「そうだろう?」と微笑まれると、身体がぶるりと震えた。
「な、何を……」
「是非とも教えていただきたいものだ。才女と名高いエリザベス・ローレンス嬢が逃げ出したくなるほどの重大な欠陥を」
(お、怒ってる……)
婚約解消の申し出理由が嘘だと気づいている。
その上、クラウスは自分の側に原因があるのだと思っている。ならば怒るのも当然だろう。
非常にマズい。
ハーヴェイ家は長年国を支えてきた最上位の貴族。国王に忌憚なき意見を述べることが許されている数少ない家門だ。その優秀さと冷酷さは国内随一。怒りを買えばどうなるか。
エリザベスは慌てて否定した。
「そんなことはありません! クラウス様にも公爵家にも何の問題もありません。これは私自身の問題によるもので」
「ならば、この診断書を書いた医師にじっくり尋ねてみようか。それとも君の父を呼び出して……」
「お止めくださいっ!」
エリザベスは悲鳴のような声を上げた。
そんなことをされれば、ローレンス家も専属医師も仕事を失うだろう。失うものが仕事だけとは限らない。