想いと共に花と散る
 それこそ、今日の市中の見回りの際にも耳にした、一番隊の隊士のものだ。

「京はもう、遊び場じゃない。甘い顔をした奴から、足を掬われる」

 その男の一言で少しの間が空く。
 しばしの沈黙の後、男は淡々と続けた。

「俺達は“守る側”だ。守られるだけの存在が増えれば、刃は鈍る」

 新撰組の元は将軍警護のために集められた集団。それが今や京を守るための組織へと肥大化した。
 剣の腕だけを求められ集まったのだから、剣の腕がままならない者など必要ない。
 彼らの話は、棘を持っていようと理にかなっていた。

「……あの小姓、いずれ禍の種になる」

 誰かが、冗談めかして言う。その一言は雪の存在を完全否定したもの。

「そんな大袈裟な、まだ子供だろ?」
「子供だから、だ」

 その一言が、静かに落ちる。
 雪はその場に蹲り、ただ今にも溢れ出そうになる涙を必死に堪えていた。

「守られることに慣れた人間は、守る側にはなれない」

 それ以上彼らは何も言わなかった。その沈黙が、逆に重く伸し掛かる。
 雪は、知らず知らずのうちに袖を握り締めていた。外が静かになって、指先が冷たくなっていることにようやく気づく。

(……聞かなきゃ、よかった)

 そう思ったのに足は動かなかった。すぐに厨を出れば聞かずに済んだものをそうできなかった。
 違う。正確には、しなかった。
 彼らの話を聞いてしまったからもう戻れないのである。
 それは、組の中で確実に芽吹き始めた“分断”の音だった。たとえ自らが望んで入隊したとしても、誰しも反感は抱いているもの。
 彼らにとっての反感の対象が、雪であっただけのことなのだ。

(だからって……だからってそんなこと、言わないでよ)

 守られてばかりであることは自分自身が誰よりも分かっている。
 だから、守られずとも済むように強くなろうとしている最中なのだ。
 助言も手本も何も無い。そんな中で、必死に強くなるための答えを探しているのだ。

「皆の足を引っ張ってることくらい、私が一番―――」

 思わずそう叫ぼうとしたその時、温もりのある何かがそっと雪の両耳を覆った。

「……聞かなくていい」

 囁くような暗い声が静かに落ちる。
 その声は、普段の軽やかなものではなかった。
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